そう言って隆彦はプロセスマネジメント・マスターコース第2講で出された宿題用紙、「セールス標準プロセス&マネージメントポイントワークシート」を出した。
これまで、ずっと黙って聞いていた板前の信一の目が光った。
工業高等学校卒業の信一は、「設計」という言葉に強く心惹かれたのである。
「このワークシートは、『商品』とそれを届けたい『ターゲット』を決めて、そのためにしなくちゃ行けない事をステップ毎に分解してかけるようになっているんだ。」
と隆彦は続けた。
「今回は、商品を『残暑納涼会』、ターゲットは『これまで来て頂いたことのある法人のお客様』に設定してワークシートを作って見ました。
プロセスマネジメントで絶対忘れては行けないのは『ゴールからの逆算』という考え方なんだ。
まずゴールを決めて、そこから順番に逆算していって今やらないといけない事までを決める。そしてそれを設計取り進めていくんだ。」
「そうはいってもお前、世の中そう計画通りにいかないって」
と、親方は渋い表情を見せる。
「もちろんそうさ」
隆彦はあっさり認めて続けた
「だから必要なのは、計画を立てて、やってみて、うまく行ってるかどうか確認して、改善する。ってこと。」
「それ、高校で聞いた事があります」
と信一が珍しく口を挟んだ。
「確か『PDCA』って言って、俺がいたN県の工業高校で産業支援機構の人が来て話していたのを聞いた事がある。」
「そうか信一さんは工業でしたよね。」
得たりと、隆彦はうなずく。
「そうなんですよ『PDCAサイクル』って言って『PLAN→DO→CHECK→ACTION」を繰り返して工業製品などの品質を向上させる考え方があるんですが、プロセスマネジメント大学ではそれをさらに『G-PDCA』という考え方に深めてるんです。」
「なんでい その後からついたGってのは? ジャイアンツか??」
と親方が混ぜっ返す。
「いいから黙って聞いてあげなよ。」
春江が親方をたしなめる。
「Gってのは最初に言った『ゴールからの逆算』のGOALさ。
つまり、数値的なゴールを定めて、それにあわせたプランを作る。そしてその計画通りに実行して、ステップごとに見直しを加えて実行を重ねゴールにたどり着く。それが『G-PDCA』なんだ。」
いつもなら、親方には熱く反論してけんかを仕掛けてしまう隆彦も、このときばかりは冷静だった。
「ふーん まあおもしれぇじゃねえか。
まあそう理屈通りに行くかどうかわからねえが、やってみる価値はありそうだな。
おう、信一さんよ、ちょっと隆彦を手伝ってやってくんねえかな。『数値化された目標』とか『G-PDCA』なんて俺にはちょっと荷が重いわ。」
「わかりました親方、俺意外と数字ものは好きなんですよ。」
と信一。
「わかってるよ、でなきゃあんな暗号表みたいな競馬新聞とにらめっこ出来ねえもんな。
俺は手を出さねえぞ。キャンペーンなんて柄にもない事はしたくねえからよ。でもまあ、少しは元でもかかるだろ。そこだけ面倒見てやるよ。」
「さすが太っ腹!」
春江がおどけて持ち上げる。
「親方ありがとうございます。そうは言っても目標売り上げ100万円のキャンペーンなんで、費用はなんとか5〜6万で抑えるようにするよ。
じゃあ、あとは俺と信一さんで進めるから、出来上がったらまた見てください。明日のランチ終わりの仕込み時間をちょっとお借りします。」
「じゃ今日はこれで解散だな。おい春江、二人のこして俺達は帰ろう。
久々に品川ぶらぶらして、Wのケーキセットでも食べて帰ろうぜ。」
顔に似合わず甘党の親方に促され、少々心配顔の春江も店を出た。
「さーてと じゃ隆彦さん始めましょうか。」
やる気満々の信一を見て、(ワークシートを自分で完成させておかなくてよかった。)と思う隆彦だった。