第2章 第8話 「9月某日 夜11時」


「ご利用ありがとうございました。 またお待ちしてまーす。」

上機嫌で帰る団体客を、その姿が見えなくなるまで満面の笑みで見送ると、春江はのれんを降ろして店に入ってきた。

「いやー 皆様 おつかれおつかれ。これで『残暑納涼会』のお客様は全部おしまい。麗華ちゃんも今週はお休みなしで、大変だったわね。」


「いーえ、あたしなんだか楽しかったです。」

麗華はにっこりしながら春江にそう答えた。

「そうね、毎日いらっしゃるお客様の数とメニューがわかっているんだから、最初から心の準備ができるわよね。」

「ええ、いつ来るかわかんないお客を待っているより、ずっと楽しいです。」


「おい、隆彦なかなかうまい事やったな!」

包丁を手入れしながら、親方の和彦も上機嫌だ。

「親方ぁ うまい事やったなんて言うけど 私も初めての営業で心臓バクバクだったんですからね。」

わきで片付けをする信一がおどけて言う。

「わーってる、わかってますよ 信一アニぃ。ホントご苦労だったな。で感じの結果はどうだった?」


電卓で集計していた隆彦が答えた。

「今日の分も入れて、残暑納涼会の売上は23組で112万円ちょっとになったよ。 総人数が176人だから、客単価はざっと6,400円。めでたく目標達成だね。38件のプラン検討から想定通り6割予約もらえたのは大きかったね。『残暑納涼会』っていう新コンセプトで競合がいなかったのも幸いしたね。」

「おう、上出来じゃねえか。計画を軽くオーバーだな。」


「去年のカレンダーを見ると、この時期の団体さんは15組だからずいぶん良いね。それに・・・」

「それに なーに?」と、春江が聞く。

「それに、予約の団体さんはフリーのお客さんと違って、最初っから必要な分だけを仕入れれば良いから、ロスが減って原価も多少安くなったと思うよ。」


「ばかやろ わかってらい んなこたぁよ。 それよか納涼会と忘年会だけじゃぁもったいねぇ・・・

春の移動シーズンにあわせたキャンペーンなんかも頼むぜ!隆彦大将!」

キャンペーンに懐疑的だった和彦は照れたようにそうおどけてみせた。


「ったく 営業に行く身にもなってくださいよぉ 親方」

「わかってるって 信一さんよ。 うまい事行ったら給料上げてやるから、おめえも競馬ばっか行ってねえで、嫁さんでも貰う算段でもしたらどうだ?」

「おっと そう来ますか??」


普段は無口な信一も、今日に限っては開放感から饒舌になっているようだ。


そんな様子を見ながら、

「そろそろ、プロセスマネジメント大学第3講で学んだ『価値・特性検討法』を使ったランチ増強を持ち掛けても良さそうだな。」

そう思う隆彦だった。


第2章 完     


ご愛読ありがとうございました。

第3章では、「さわ田」がランチ革命に挑戦します。

お楽しみに。


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