「ご利用ありがとうございました。 またお待ちしてまーす。」
上機嫌で帰る団体客を、その姿が見えなくなるまで満面の笑みで見送ると、春江はのれんを降ろして店に入ってきた。
「いやー 皆様 おつかれおつかれ。これで『残暑納涼会』のお客様は全部おしまい。麗華ちゃんも今週はお休みなしで、大変だったわね。」
「いーえ、あたしなんだか楽しかったです。」
麗華はにっこりしながら春江にそう答えた。
「そうね、毎日いらっしゃるお客様の数とメニューがわかっているんだから、最初から心の準備ができるわよね。」
「ええ、いつ来るかわかんないお客を待っているより、ずっと楽しいです。」
「おい、隆彦なかなかうまい事やったな!」
包丁を手入れしながら、親方の和彦も上機嫌だ。
「親方ぁ うまい事やったなんて言うけど 私も初めての営業で心臓バクバクだったんですからね。」
わきで片付けをする信一がおどけて言う。
「わーってる、わかってますよ 信一アニぃ。ホントご苦労だったな。で感じの結果はどうだった?」
電卓で集計していた隆彦が答えた。
「今日の分も入れて、残暑納涼会の売上は23組で112万円ちょっとになったよ。 総人数が176人だから、客単価はざっと6,400円。めでたく目標達成だね。38件のプラン検討から想定通り6割予約もらえたのは大きかったね。『残暑納涼会』っていう新コンセプトで競合がいなかったのも幸いしたね。」
「おう、上出来じゃねえか。計画を軽くオーバーだな。」
「去年のカレンダーを見ると、この時期の団体さんは15組だからずいぶん良いね。それに・・・」
「それに なーに?」と、春江が聞く。
「それに、予約の団体さんはフリーのお客さんと違って、最初っから必要な分だけを仕入れれば良いから、ロスが減って原価も多少安くなったと思うよ。」
「ばかやろ わかってらい んなこたぁよ。 それよか納涼会と忘年会だけじゃぁもったいねぇ・・・
春の移動シーズンにあわせたキャンペーンなんかも頼むぜ!隆彦大将!」
キャンペーンに懐疑的だった和彦は照れたようにそうおどけてみせた。
「ったく 営業に行く身にもなってくださいよぉ 親方」
「わかってるって 信一さんよ。 うまい事行ったら給料上げてやるから、おめえも競馬ばっか行ってねえで、嫁さんでも貰う算段でもしたらどうだ?」
「おっと そう来ますか??」
普段は無口な信一も、今日に限っては開放感から饒舌になっているようだ。
そんな様子を見ながら、
「そろそろ、プロセスマネジメント大学第3講で学んだ『価値・特性検討法』を使ったランチ増強を持ち掛けても良さそうだな。」
そう思う隆彦だった。
第2章 完
ご愛読ありがとうございました。
第3章では、「さわ田」がランチ革命に挑戦します。
お楽しみに。